登場人物は僕の分身
5時間の大作「警官の血」の脚本・演出 鶴橋康夫(つるはしやすお)
テレビ界を代表する演出家が、5時間の大作「警官の血」を仕上げた。
テレビ朝日の開局50周年記念ドラマとして、2月7、8日(後9・00
)に放送される。
敗戦直後から現代まで、3代にわたる警官の生と死を大きなスケールで
骨太に描く。交番勤務の1代目(江口洋介)は自殺、過激派の組織に潜入
した2代目(吉岡秀隆)は殉職するが、2人の死には警察内部で隠蔽(い
んぺい)された秘密があった。3代目(伊藤英明)が真相を突き止める、
というミステリー仕立てになっている。
直木賞候補になった佐々木譲の同名小説を読み、ドラマ化を提案した。
話題を呼んだ映画「愛の流刑地」、黒沢明監督の「天国と地獄」のリメー
ク版に続き、脚色も担った。「3代の物語は、日本人の戦後史に置き換え
られる。僕が生きてきた時代だから、個人史も重ねた」と力を込める。
◎
読売テレビ時代から、独特の映像美学で定評がある。脚本・池端俊策、
主演・浅丘ルリ子と組み、現代人の心の病巣をえぐり出す「仮の宿なるを
」「危険な年ごろ」といった秀作を送り出した。「鶴橋学校の生徒」と称
した人気脚本家の野沢尚とは、新聞社を舞台にした「愛(めぐみ)の世界
」など社会性の強い作品を10本以上作った。2004年に自死した野沢
の遺作となった「砦(とりで)なき者」では、芸術選奨文部科学大臣賞な
ど六つの賞をさらった。
「僕のドラマは部屋を暗くして見てほしい。個と個が向かい合うために
」「登場人物は僕の分身。タコが足を食うように、自分をさらけ出してい
る。作品は遺書の代わり」が口癖だ。
長髪に度付きのサングラス。黒ずくめの格好を通すが、口を開けば笑み
を絶やさない。いつも陽気で、相手の胸の内に入り込む人間的魅力がある
。撮影現場では全体に目配りを利かせ、出演者、スタッフに気を遣う。一
緒に仕事をした人の多くが、「鶴橋組」を名乗るゆえんだ。「警官の血」
では佐藤浩市、椎名桔平、奥田瑛二らが脇を固める。
◎
「外に出ると、風が吹けば雨も降り、何が起こるかわからない。そうし
た偶然を取り込みたい」と、オールロケを貫く。今回は、時代相を忠実に
再現するため、昔の風景を求めて九州や四国などを転々とした。8月から
3か月に及んだうえ、150人もの俳優が入れ代わり立ち代わりだった。
「結構きつかったね。鶴橋組といっても、『前門の役者、後門のスタッ
フ』の間に立つ監督は、孤独な猛獣使いみたいなもの。常に試されている
んですよ」
還暦を過ぎてから、句作を始めた。「夏の巫女(みこ)首に真っ赤なキ
スの痣(あざ)」との近作があるように、ドラマと同様、色っぽい句も交
じる。放送関係の賞を取り尽くし、紫綬褒章も手にした名匠は、枯淡の境
地とはほど遠く、69歳の今も若々しい。(編集委員 鈴木嘉一)
2009.1.19 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/tv/20090119et0b.htm