完成させた『宿命』をどこか違うと感じた和賀英良(中居正広)は、その足り
ない何かを求めて亀嵩へと向かう。
駅に降り立った瞬間、和賀の胸に数年間硬く閉ざしていた感情が一気に蘇る。
封印していた過去の記憶が波のように押し寄せ、和賀は溢れる感情を必死に抑
えた。
和賀を尾行した今西(渡辺謙)は、そんな和賀の様子をただ見つめていた。
和賀はここで何を思っているのか。ここで何をしようとしているのか。
そんな今西に気付くこともなく、和賀は忘れかけていた全ての感情を吐き出す
かのように、亀嵩の地に向かって叫び声を上げた。彼の叫び声は、静かな亀嵩
に悲しく響き渡った…。
そして和賀は何かを決意したかのように、再び歩き出す。その視線の先には、
和賀を見つめる今西の姿があった。今西は和賀に「本浦秀夫さんですね」とた
ずねる。和賀は今西に「はい」と答えると、「宿命を僕に弾かせてくれません
か」と言う。
三日後、蒲田西警察署・蒲田操車場殺人事件捜査本部では今西が、決意を込め
て和賀への逮捕状を請求していた。
今西は、自分が知った和賀の人生を、静かに話し始めた。
三木謙一(赤井英和)が映画館で腕の傷がある和賀の写真を見て、東京行きを
決めたこと、和賀が何故三木を殺害したこと、そして和賀が三木を殺してまで
隠したかった過去…。
大畑村に住んでいた本浦家には、代々続いていた根深い差別があった。そして
その差別により、和賀が背負うことになった『宿命』に繋がる恐ろしい事件が
起きのだった。事件は、千代吉(原田芳雄)が住んでいた大畑村にダム建設の
要請がされたことから始まった。土地に愛着のある住民の多かった大畑村は、
ダム建設の反対で統一され、事態は他の村を含めての住民投票にゆだねられて
いた。そしてその結果大畑村は負け、村民達はやり場のないその悔しさを、千
代吉にぶつけたのだ。訳もなく突然村八分にされた千代吉は、その日から毎日
、とても陰湿で残酷な仕打ちを受けたのだった…。そしてある日、妻の房(か
とうかずこ)の病気が悪化するが、村の医者は房を診ようともせず、房はとう
とう息を引き取ってしまう。千代吉は怒り狂い、村人を次々と殺害。村全体に
火を付け、息子の秀夫を連れて村を出たのだった…。
今西の口から語られた和賀英良の壮絶な過去に、捜査本部は息を呑んだ。そし
て同じ頃、コンサートホールのステージでは和賀が完成させた『宿命』を、全
身全霊を込めて弾いていた。その姿まさに、幼い頃『宿命』を背負ってしまっ
た秀夫の姿だった…。
─最終楽章・後編に続く─