『子宮の記憶/ここにあなたがいる』松雪泰子 インタビュー
「家族のあり方を考えるきっかけになれば嬉しい」松雪泰子インタビュー
日時:2007年1月10日(水)
場所:恵比寿のスタジオ
出席者:松雪泰子
取材・文:橋本安代
『フラガール』での厳し~いコーチ役から一変、『子宮の記憶/ここにあなたがいる』
では、新生児誘拐犯という人に言えない過去を持った女性、愛子を儚げな美しさで熱演
している松雪泰子さん。インタビューに現れた彼女は、ビビッドなレモンイエローのド
レスに大きなネックレスという、モダンなルックス。おお、これぞテレビや映画で見た
松雪泰子そのものだ。と思いきや、言葉を交わすと、その笑顔のなんて優しいこと!愛
子と同じ、母のような優しさ、そして美しさです。こんなに綺麗な人の前にいていいの
かしら?どぎまぎしながら、インタビューはスタートしました。
とても繊細な役ですが、演じる時に気をつけられた点は?
松雪:「割り切れない感情の積み重ねの作品で、“このシーンをこの感情で”という
明確な指示がひとつもありませんでした。ただ、全てにおいて起こってくる
事柄や出会いや変化が、細胞レベルで反応して、潜在的な部分で愛情を感じ
ながら変化していくというストーリーだったので、演じる上でキャラクター
を構築しすぎないようにしました。脚本を読んだ時に、繊細で独特の空気感
を持って、情緒的で詩的な女性だという印象があったので、それを出してい
けたらいいなと思いました。出来るだけ頭を使わないでいるということの繰
り返しでした。」
若松監督とは、どんな打ち合わせをされましたか?
松雪:「監督とは、シーンを撮っていく上で、方向性の確認だけを必ずしました。こ
のシーンはこういう気持ちでこうだから、という顕在的な意識ではなく、も
っと潜在的な深い意識や感情の動かし方を常に持っている、ということを何
度も確認しながらやりました。私自身が演じている時に……何て言えばいん
でしょう……(言葉を選びながら)、考えながら演技をしているのが分かる
と、監督から“道が反れてるよ”というアドバイスがあったりしました。」
愛子は、どんな女性だと思いますか?
松雪:「本当はすごく情熱的で愛情深い人なんですけど、愛情の深さに自分自身で恐
れを持っていて、それを表現してしまうと、いろんなものを破壊してしまう
と思っている人ですね。愛情に飲まれて止まらなくなってしまうことを恐れ
ていて、制御するために、人との距離感を計ってしまう人だと思います。愛
情を見せてはいけないという感覚があって、それゆえに、繊細で、誰も受け
入れないし、誰にも本当の自分を見せない、常に傷みを抱えている女性です
ね。新生児を誘拐したという過去があって、常に社会的にも隠れて生きてい
かなければいけないという状況もありますし。ただ自分に命があるから、時
間を重ねて生きていかなければいけないという確信を抱えている、そんな女
性ですね。」
撮影前に原作は読まれましたか?
松雪:「原作の方が事件性がフューチャーされていて、泥沼ですね。愛子という女性
も、原作の方がもう少し力強さがあったと思います。脚本では、空気感やア
ンニュイさや、気だるさがあっりました。それと同時に母性愛を短いセリフ
の中で出していくように心がけました。」
沖縄ロケでしたが、印象に残った思い出はありますか?
松雪:「海で愛子と真人が和解をするシーンがあるのですが、シーンを撮る日は、朝
から嵐のような豪雨で、とても撮影が出来るような状態ではなかったんです
。準備はしていたんですが、今日はムリかなと思いながら現場に向かったの
ですが、着いた途端に雲が消えて、真っ青な海と空が顔を出したんです。自
然の力に助けられて、撮影が進んでいったという印象がありましたね。」
柄本佑さんとの共演はいかがでしたか?
松雪:「ナイーブさと繊細さと、狂気を同時に持ち合わせた方で、一緒に演じるのが
すごく面白かったです。淡々とした表現の中に、動揺している様とか狂気の
部分とかが言葉を交わさなくても、ものすごく伝わってくるんです。真人が
愛子に見つめられてどきどきしている気持ちが本当にリアルに伝わってきて
、目を合わせているだけで、私まで演じながらどきどきしてしまって、それ
でいい雰囲気で撮影できていったんじゃないかなと思います。そういうバイ
ブレーションを感じさせてくれる方だったので、演じていてとても楽しかっ
たです。」
最近、親が子を殺したり、子供が親を殺したりする、悲しい事件が多いですが、そんな
時代だからこそ、この映画を撮るんだと若松監督がお話されていました。松雪さんは、
どう思われますか?
松雪:「世の中に対するメッセージになればという思いもすごくありました。家族の
あり方、親子だけでなく兄弟間でも、悲しい事件がたくさんありますよね。
本当は家族の中でお互い信頼し合えて、愛情が与えられるのが一番の理想な
んですが、この作品は全く逆で、家族の中が殺伐としていて、外に愛情を求
めていくのですが、家族のあり方というのは、この映画を通して改めて考え
るきっかけにもなると思いますし、親が愛情を注ぐ、そして子供がそれを感
じるという、愛というものが見えなくなっている人が多いのかなという気が
します。常に親は見返りを求めず、無条件で子供に愛情を注いでいるんです
よね。現代の殺伐とした中で、子育てにすごく苦労しているお母さんとか、
自分自身に愛が枯渇しているのかもしれませんよね。自分に愛がなければ、
人に愛を与えることも出来ないですよね。それは、自分も子育てをしながら
感じることです。どう思いながら子供や家族と接するかを、また考えてもら
える作品ではないかと思います。本当に悲しい事件が多いですし、自分にも
子供がいるので胸が締め付けられる思いがしますけれど、何か少しでもこの
映画が家族について考えるきっかけになれば嬉しいです。」
短い時間でしたが、ひとつひとつ慎重に言葉を選んで、大切に答えてくれました。作品
や役柄に対して、繊細という言葉をよく使っていましたが、「悲しい事件」という時、
本当に悲しそうな顔をする、感性豊かな松雪さん本人が繊細そのものです。本当はもっ
と話したいんだけど、ネタバレを防ぐため、あまり話せない部分もあるのが本当に残念
。謎が残った方は、是非映画館で確認してください。
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『子宮の記憶/ここにあなたがいる』完成披露試写会(記者会見レポート)
『子宮の記憶/ここにあなたがいる』
配給:トルネード・フィルム
公開:2007年1月13日
劇場情報:シネスイッチ銀座他、全国順次公開
公式HP:http://www.shikyu-kioku.com/
あらすじ
裕福な家庭で育ち、何不自由のない生活をしているように見える18歳の真人。だが、世
間体ばかり気にする父親や上辺だけの愛情をそそぐ母親に失望していた。真人には、生
後3日で誘拐された過去があり、犯人の女性に奇妙な親近感を抱いていた。夏休み、真
人はその女性が住む沖縄へと向かった。そこで、食堂で働く愛子に出会い、住み込みで
アルバイトを始める。やがて、愛子と真人の間に、母子とも恋人ともつかない愛情が芽
生える。
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