http://realsound.jp/2016/08/post-8661.html
音楽フェスの新たな方向性を示した『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』レ
ポート
7月30日~31日と29日の前夜祭を含む3日間、宮城県石巻港雲雀野(ひばりの)地区で
『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』が開催された。小林武史、櫻井和寿を
はじめとするミュージシャン47組、アーティスト9組、フード関連(シェフ・サービス
メンバー39名、出店者40組)が参加し、約4万人の観客を動員したこのフェスは、2017
年夏に行われる本祭『Reborn-Art Festival 2017』のプレイベントと位置付けられてい
た。
『Reborn-Art Festival』とは、東日本大震災から5年が経ち、復興に向けて進んでき
た現地の人々の“生きる力”“生きる術”に共感したアーティストが、東北の自然や食
材、歴史、文化を舞台にしながら、そこに暮らす人々と共に繰り広げる総合祭。今回の
イベントにも、本祭に向けた取り組みが数多く展示されていた。
会場に入って最初に目に入るのが、人をかたどった全長33mの巨大な作品「空気の人
」(鈴木康広/制作は武蔵野美術大学空間演出デザイン学科の有志メンバー)。さらに
“目が覚めると過去の記憶をすべて失っていた男の経験”をテーマにしたインスタレー
ション「three tables for amnesia(a part of“figment”)」(さわひらき)など、
石巻/牡鹿半島を舞台に行われる本祭『Reborn-Art Festival 2017』の参加アーティス
トや予定されている内容を紹介するコーナーも。また、メインステージの装飾には、フ
ランス生まれのアーティスト・JRによる作品「INSIDE OUT」が用いられていた(牡鹿半
島、石巻の市街地を巡りながら撮影された地元の人たちのポートレイト写真もステージ
デザインの一部に使用)。会場内にもポートレイト撮影用のトラックが置かれ、このア
ートに参加したい観客が列を作っていた。また、メインステージのビジョンに石巻の海
の映像を同時中継したり、各アーティストのプロフィールを映し出すなど、このイベン
トのコンセプトに沿った演出も印象的だった。
フードエリアも充実。三陸・雄勝産の帆立や牡蠣など、その日水揚げされた新鮮な魚
介類を漁師さん自らが焼いてくれる屋台エリア「ハマ マルシェ」、地元の飲食店が鹿
、ホヤ、鯨などの名物料理を提供する「ハーバー横丁」などで東北の食文化を楽しむこ
とができた。また、会場内に設置されたレストラン「Reborn Art DINING」では日本各地
から集まったトップシェフたちが、やはり地元食材を使ったスペシャルメニューを提供
。ランチは2800円、ディナーは6000円と“フェスごはん”としてはかなり高価だが、3日
間を通してすべて満席。メインステージから聴こえてくる多彩な音楽を聴きながら、質
の高いランチ、ディナーを堪能できるこのダイニングは、フェスの新しい楽しみ方を提
示していた。
東北との関わりの中で、多様な音楽、芸術を発信するという『Reborn-Art Festival
× ap bank fes 2016』のコンセプトは、もちろん音楽にも色濃く反映されていた。そ
れを象徴していたのが、オープニングのステージ。このイベントのホストバンドである
Bank Band(小林武史/Key、櫻井和寿/G&V、小倉博和/G、亀田誠治/Ba、河村“カ
ースケ”智康/Dr、山本拓夫/Sax、西村浩二/Trumpet、四家卯大/Cello、沖祥子/
Violon、イシイモモコ/Cho、小田原ODY友洋/Cho)、SUGIZO(G)、ATSUSHI(
Dragon Ash)に加え、地元の和太鼓奏者「渡波獅子風流塾」、石巻市立桜坂高校、石巻
好文館高校の合唱団、さらに石巻を中心に活動している男性コーラスグループ石巻メン
ネルコール、女性コンテンポラリーダンサーなどもステージに上がり、音楽ジャンル、
地域性、年齢、性別などを超えたセッションを繰り広げたのだ。このセッションのプロ
デュースとアレンジメントはもちろん小林。名プロデューサーとして知られる小林の敏
腕ぶりを改めて実感できるオープニングだったと思う。
ライブは基本的に“Bank Band+ゲスト・ボーカル”とバンド、ソロアーティストな
どのステージが交互に行われる構成。2日目(31日)のゲスト・ボーカルにはSalyu、佐
藤千亜妃(きのこ帝国)、安藤裕子、ナオト・インティライミ、ハナレグミ、MISIA、
櫻井和寿が登場。なかでも印象的だったのがMISIAのアクト。震災のことに直接触れ、
死者への祈りを捧げ、“みんなが笑顔になれるのが本当の復興”というメッセージを伝
えた後で歌われた「明日へ」は、このイベントを石巻で行うことの意味を伴い、大きな
感動を生み出していた。また櫻井和寿は「スローバラード」(RCサクセション)「ロス
トマン」(BUMP OF CHICKEN)などの貴重なカバーを披露。「この曲を歌うためにここ
に来たようなもの」とまで言い切った新曲「こだま、ことだま。」(Bank Band)にお
ける深い祈りにも似た歌声も、このイベントを象徴するシーンのひとつだった。
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