http://music.emtg.jp/special/20140203455473447
MISIA、急逝したドラマー青山純に捧げる『僕はペガサス 君はポラリス』
昨年から続くツアー「星空のライヴVII」もいよいよ終盤、服部隆之が指揮を取るオ
ーケストラとの共演を全国で繰り広げている。そんな中、MISIAがリリースするのは、
話題のテレビドラマ『S -最後の警官-』の主題歌「僕はペガサス 君はポラリス」だ
。イントロのピアノは少し愁いを帯びた和のニュアンスを含んでいるが、歌が始まると
明るいグルーヴが身体を揺らす。レコーディングはツアーバンドのメンバーを中心に行
なわれ、MISIAならではのミディアム・バラードと言えるだろう。
実は昨年の暮れ、デビュー以来、彼女を支えてきたドラマー青山純が急逝した。青山
がMISIAに遺したアイディアやグルーヴのことも語ってもらったのだが、話はJ-POP全体
に及ぶインスピレーションに富んだインタビューになった。『僕はペガサス 君はポラ
リス』のCDのジャケットには、「青山純に捧げる」と書いてある。
MISIA:「僕はペガサス 君はポラリス」は、『S -最後の警官-』のお話をいただいて
から、書き下ろしました。台本と原作を読ませてもらって、私は男らしい強さをテーマ
にした世界観だと思ったので、もしかしたらバラードじゃないほうがいいかもと考えま
した。
EMTG:でも「MISIAといえばバラード!」っていうイメージがあるよね。
MISIA:そうですね。でも、少しテンポの速い曲でも、アレンジが壮大なら、バラード
にも聴こえるんです。「僕はペガサス 君はポラリス」をそういうテンポで歌ってみた
ら、 すごくよくて、ドラマ側のスタッフも喜んでくれました。絶妙な熱さのあるミデ
ィアムって、今までMISIAがやったことのないタイプ。MISIAをずっと聴いてきた人にハ
ッとしてもらえるし、私自身も新しいタイプの曲って歌詞を書きたくなるんです。すぐ
に歌詞を書き始めて、「できることなら今回のツアーで一緒にやっているバンドメンバ
ーとレコーディングができたらいいね」ってお願いしました。
EMTG:前作シングルの「幸せをフォーエバー」は、完全J-POPだったけど、今回の「僕
はペガサス 君はポラリス」は、MISIAの洋楽的なグルーブとJ-POPが上手く折り合って
いるように感じた。もっと言えば、80年代のJ-POPのテイストがすごくあるね。
MISIA:んー、そうですか? 私にとっては、日本の歌謡曲をさかのぼればさかのぼる
ほど、洋楽に聴こえるんです。
EMTG:そうか、戦後の歌謡曲って、美空ひばりにしても雪村いづみにしても、もろにジ
ャズの影響を受けている。笠置シヅ子の「東京ブギウギ」は、MISIAの弦アレンジをや
ってる服部隆之さんのお祖父さんの服部良一さんの作曲だからね(笑)。
MISIA: 完全に洋楽ですよね。だって、あの「ウルトラマン」のテーマでさえ、ベース
始まりの曲なので、「おおおおー!」みたいな(笑)。だから、今の完成した状態を
J-POPと捉えるのか、今のJ-POPを作ってる人たちが聴いてきた洋楽に近い構成のものを
J-POPと言うのかで、またちょっとニュアンスが違いますよね。
EMTG:確かに。
MISIA:誰かから「もうちょっとJ-POPっぽく」って言われたときに、どこの時代の
J-POPかなあって最近思うんです。だから、80年代より前のJ-POPって、もしかしたら日
本人が感じる洋楽なのかもしれないし(笑)。そういう時代に入ってるのかもしれない
ですよね。J-POP は90年代で確立されて、2000年からいろんなジャンルがうわーっと出
てきて、それまでの音楽をある意味ベーシックにしつつも成長していくっていう。今は
そんな音楽のベースができた状態に感じますね。
EMTG:その中でMISIAは、 いいバランスで洋楽とJ-POPを取り入れていると思うな。そ
のせいか、ライブの歌がすごくナチュラルになってるって感じる。
MISIA:私、去年はライブを60本やって、今は77本を目指してライブをやっているんで
すが、これまでいろんな人から 「もうちょっと肩の力を抜いて歌ったほうがいいよ」
って言われてきました。何年か前に、エリカ・バドゥにも言われたんです。「あなたは
歌い上げるのがすごく上手だけど、そうじゃない世界もあるわよ。それを知ったら、も
っと楽しくなると思う」って。亡くなった青山さんにも「音楽は足し算じゃなくてまず
引き算をしなきゃだめだ」って言われてました。「いろいろ盛るのがいいんじゃなくて
、とりあえず全部削ぎ落として、いちばんシンプルでカッコいい状態を作ってから、少
しずつ足し算していくようにしないとわからなくなる」って、悩んでたときによく言わ
れてて。そしたら、今回のツアーをやってる中で、やっぱり何十本もやってると声が疲
れてくるじゃないですか。で、不思議なんですけど、疲れて力を抜いて歌ってるときに
、お客さんがすっごく泣いてくださるんです (苦笑)。
EMTG:へえー! 不思議だね(笑)。
MISIA:「あれ?」と思って。たとえばおしゃべりも、全部を力を込めて喋るわけじゃ
ないじゃないですか。抑揚っていうものがあって。その抑揚は、ほとんどの場合、力を
抜いた柔らかい声で構成されていると思うんです。なので、 私の歌はまだまだ力が入
りすぎてて──それでも言われてけっこう抜いてたんですけど──自分の思ってる5倍
ぐらいは(苦笑)優しく歌ったほうがいいんじゃないかって思います。実はシンプルに
していくって、けっこう怖いことだったんですね、私にとって。手を抜いてるって言わ
れるんじゃないかって。
EMTG:ああ、そういう心配があったんだ。
MISIA:でも、引き算して研ぎ澄まされたものを提供したほうが、もしかしたらものす
ごくお客さんに伝わるんじゃないかなと。
EMTG:ま、早い話が、疲れて力がもう入らない状態になったと(笑)。
MISIA:初めて強制的に力を抜いて歌えるようになったときに、お客さんが 泣いてるの
を見て「あれ? なるほどなあ」って(笑)。そうしたら逆に、抜いて歌うところと力
を入れるところのメリハリが出ますからね。
EMTG:“星空のシスターズ”のコーラスの力も大きいかも!?
MISIA:そうですね、素晴らしいコーラスが入ったことによって、ライブで引き算がす
ごくしやすくなりました。
EMTG:それとやっぱり青山純さんの存在かな? 初めて青山さんと会ったときのことは
、憶えてる?
MISIA:初めて青山さんのドラムで歌ったとき、「あ、初めてロックじゃないビートの
人と歌える!」って思いました。そういうドラムの方をずっと探していたんですけど、
なかなか出会えなくて諦めかけていたので、嬉しかったです。青山さんの音って、“引
き算”って言っていただけあって、余分なものがなくて、他の楽器の音が全部立ってく
るんですよね。どの音ともケンカしない。だからみんなが自由にアドリブできる。それ
が音楽なのかなあって、今、すごく思います。
EMTG:そして歌詞のキーワードは “ペガサス” と“ポラリス”で、どちらも星の名前
だね。
MISIA:このところ、歌詞を“擬人法”で書いてみたいと思っていて。『S -最後の警
官-』で向井理さん演じる“一號”と、綾野剛さんが演じる“蘇我”は、まったく思想
が違うんですけど、“犯人から人々を守りたい”っていう共通点がある。二人の信頼関
係を擬人法で語ることによって、男と男かもしれないし、男と女かもしれないっていう
、性別を超えられるっていうところもあったので、すごくいいんじゃないかなあって思
ったんですよね。
EMTG:星の擬人法かあ(笑)。どっちがペガサスで、どっちがポラリス? イメージで
言えば、蘇我の方がクールだから、目印の天体になるポラリス(北極星)かな。
MISIA:いえ、お互いにとってお互いがペガサスやポラリスになっていく二人なんじゃ
ないかなと思っていました。
EMTG:そうかあ。それはいい擬人法になったね。そして、いよいよレコーディングに入
る。
MISIA:「そろそろレコーディングしなきゃ」って言ってるときに、青山さんが突然お
亡くなりになったんです。その数日後ぐらいに楽器レコーディングがあって、私はすご
く悲しくて、「どんな気持ちでレコーディングに臨めばいいのかな」って思っていまし
た。不思議なんですけど、同じように悲しんでいる人たちとスタジオで会って、青山さ
んの思い出話をいろいろしているうちに、すごく慰められました。みんなで「青山さん
はポラリスになっちゃったね」っていう話をして。じゃあ生きていく私たちは、音楽っ
ていう翼を持ったペガサスにならなきゃいけないって。今回はみんなが青山さんってい
うポラリスを胸に抱いてる状態で、楽器のレコーディングをしたんです。
EMTG:カップリングの「Jewelry」は、青山さんが叩いているの?
MISIA: はい。青山さんの最後のレコーディング曲です。「Jewelry」は素晴らしい出
来だったので、「この曲、みんなに早く聴いてほしいよね」っていう話をしていたんで
す。偶然なんですけど、歌詞自体に青山さんとのことに通じるような言葉があって、私
、亡くなられたときにも 「青山さんと一緒に歌えたことが宝物だ!」ってずっと言っ
てたんです。考えてみたら、青山さんと最後にレコーディングした曲がジュエリーだ、
宝物だったっていう。なのでこの「僕 はペガサス 君はポラリス」は、忘れられない
シングルになりました。ぜひ、聴いてください。
EMTG:ありがとうございました。
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