「アーティストと呼ばれるよりも,シンガーと呼ばれたい」。MISIAは以前からそう語
っていたと思う。音楽に類まれなる愛情と情熱を注ぎ、ただ一心にその道を邁進してき
た。そんな彼女ゆえに、その言葉には新鮮味と同時に真実味が感じられた。新作『
SINGER FOR SINGER』は、そんな歌への思いを秘めたMISIAに、シンガーとして自分のス
タイルを持ったアーティストたちが楽曲を提供している。
街角でラジオで、何気なく耳にするだけでも口ずさみたくなる“歌”。耳で聴いて自分
の中に取り込むだけではなく、そこで得た感情を唇から発散したくなるような──。美
しい歌が詰まったコンセプトアルバムだ。MISIAのために贈られた曲は多彩で親しみや
すいだけではなく、ダイナミックなことに驚いた。GLAYのTAKUROが描いた「冬のエトラ
ンジェ」は壮大な歌謡曲だし、CHARAの「Mama Says」、BEGIN・比嘉栄昇の「Birthday
Cake」などの多くの曲には深みのあるスピリチュアリティが流れている。
そんな濃い楽曲たちに自然体で向き合い、すっぽりと包み込むようなMISIAの歌声は果
てし無く大きく、優しさとたくましさ──すなわち母性が溢れ出ている。歌うことと生
きることはつながっていると感じさせてくれる、やはり彼女は唯一無二のシンガーなの
だ。
──今回のような“歌のアルバム”を制作しようと思ったのは?
【MISIA】 プロデューサーの勧めもありますけど、私自身のことで言えば、ライヴの
影響が大きいと思います。もともと、完成した作品をライヴで生で聴いてもらう時、ど
う歌えばいちばん伝わるんだろうと試行錯誤する。その作業がいちばん好きなんですよ
(笑)。クラブ、ホール、アリーナ、5大ドームのライヴまで経験して。さらに深く歌
と接してみたいと思う気持ちが生まれたんです。それで、こういうシンガーアルバムを
作りたいねっていうことになったんです。
──楽曲提供してくれたシンガーの方々とはお会いできました?
【MISIA】 比嘉さんだけ残念ながらお時間が合わなくてお会いできなかったんですけ
ど。あとは制作の前に実際に私と会って各々楽曲作りのイメージを膨らましていただい
た方もいました。例えば、CHARAさんとお会いした時は、「MISIAちゃん、誰かに送りた
い言葉とか小さなカケラでもない?」と聞かれて。というのも、CHARAさんはいつも曲
を書くときに個人的な誰かに向けて書くそうなんですね。私は不特定多数に共感できる
感情を探して詞を作っていたので。いろんな視点があるんだなって思いました。あと、
久保田さんやフミヤさんはレコーディングにも立ち会ってくださって、すごく安心して
歌えました!
──楽曲は多彩ですけど、太陽、星、海、風の匂いとか、そういう自然の営みがキーワ
ードになってる曲が多くないですか?
【MISIA】 はい。それはスタッフとも話してましたね。私、そういうイメージなのか
なぁ?(笑)
──さて、来年は早々にライヴツアーですよね。
【MISIA】 このアルバムを引っ提げてのツアーですからね。なおさら歌としっかり向
き合いたい、いい歌を歌いたいな。シンガーとしてのライヴをお見せできたらいいなと
思います。
(文:丘芳麗)