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20周年を目前に映画「ハガレン」主題歌で伝えたいこと
MISIAのニューシングル「君のそばにいるよ」がリリースされた。映画「鋼の錬金術師
」の主題歌として制作された本作の表題曲はR&B、EDM、ロックのサウンドが融合したト
ラックとエモーショナルなボーカル、「君を信じてる 繋がってる」という思いを描い
た歌詞が1つになったアッパーチューンに仕上げられている。音楽ナタリーでは来年デ
ビュー20周年を迎えるMISIAに「君のそばにいるよ」の制作過程や、同時リリースされ
たライブ映像作品「MISIA SOUL JAZZ SESSION」について聞いた。
バラードじゃないほうがいい
──ニューシングル「君のそばにいるよ」は映画「鋼の錬金術師」の主題歌に使用され
ています。MISIAさんは以前から「ハガレン」の原作のファンだったとか。
はい。全巻そろえて読んでいたので、映画の主題歌のお話をいただいたときはびっくり
しました。原作が完結してからしばらく経っているし、テレビアニメ、劇場版のアニメ
がすでにあって、さらに実写版の映画が制作されるとは思っていませんでした。主題歌
のお話はもちろん、すごくうれしかったですね。
──楽曲の制作はどんなふうに行われたんですか?
まずは実際に映画の映像を観せていただいたんです。「なるほど、原作のこのあたりの
エピソードがもとになっているんだな」ということをわかったうえで楽曲を詰めていっ
た感じですね。私としては「バラードじゃないほうがいいな」と思っていて。もともと
少年マンガ誌で連載されていた作品だし、主演の山田涼介さんのイメージを考えると、
テンポが早くて、美しくて、カッコいい曲が合うだろうなと。
──「君のそばにいるよ」は、まさにその通りの楽曲に仕上がっていますね。
この曲のトラックは4、5年前に知り合った、ICHI名義でも活動している音楽プロデュー
サーのIchiro Suezawaさんに作ってもらったんです。彼はロサンゼルスにいて、ブルー
ノ・マーズ、クリスティーナ・ミリアン、ケイティ・ペリーなどの楽曲に携わっていて
。以前、楽曲のアレンジをお願いしたことがあるんですが、それがすごくよかったんで
すよ。日本語の歌詞をビートに乗せるのはすごく難しくて、私は日本語を崩さず、しっ
かりメッセージを伝えながらビートに乗せたいといつも思っているんですが、Ichiroさ
んはそのバランスを取るのがすごくうまくて。私のプロデューサーが、「彼の曲が映画
に似合いそうだ」と言って、それでIchiroさんに「これでどうですか?」と提案させて
もらったんです。アップビートの曲だけど、そんなに攻撃的ではないし、映画のエンデ
ィングにも合っていると思いますね。山田涼介さんが持っている強くて軽やかなイメー
ジにも似合うサウンドだなって。
──R&B、EDM、ロックなどのサウンドが融合していて印象的なトラックですよね。「ハ
ガレン」のキーワードである“錬成”にも通じるものがあるなと。
私もミクスチャー的なところがいいなと思ったんですよね。シングルにはDJ EMMAさん
のリミックスが2バージョン入っているんですが、原曲を聴いて「このあたりのサウン
ドに影響を受けたんじゃないかな?」と想像を巡らせながら作ってくれたみたいで。雪
のイメージで冬を連想させるバージョンが「DJ EMMA REMIX」で、夏を連想させるのが
「NUDE DUB」と季節感もあるので、オールシーズンで「君のそばにいるよ」を楽しんで
もらえると思います(笑)。
──映画「鋼の錬金術師」はもちろん、Ichiroさん、DJ EMMAさんとのコラボレーショ
ンシングルでもあると。普段から新しい才能を持ったトラックメーカーやリミキサーを
チェックしているんですか?
そうですね。私自身の仕事は曲を作ることがメインではないので、いろんな方との出会
いによって楽曲を作る楽しさをいつも感じていて。これまで一緒にやってきた人たちと
も制作を続けているし、新たな出会いを重ねることで、どんどん幅が広がっていると思
います。
何かを失ったとしても、その分手に入るものもある
──「君のそばにいるよ」の歌詞は、やはり映画の世界観を意識した内容なのでしょう
か?
はい。まず「映画の曲として書きたい」という思いがあったので。制作スタジオでも映
画の映像を観られるようにして、山田さんが登場するシーンに合わせて曲をかけながら
歌詞を書いたんですよ。特に歌い出しの「背伸びまでして僕らは 果てしない空と未来
を見つめていた」のところは、すごく迷いながら書きました。最初はもうちょっとポエ
ティックな言葉を考えていたんですけど、主人公のエドワードの身体が小さいというこ
ともあって、彼の存在を感じさせるようなフレーズにして。エドワードとアルフォンス
の兄弟の歌にしたいという気持ちもありました。エドワードからアルフォンスへの一方
通行ではなく、2人の心が行き交うような言葉を選んで。あとこの映画は小学校の低学
年、もっと小さい子供たちも家族と一緒に観ると思うんです。子供たちが映画館でこの
曲を聴いたときに、「ハガレン」に流れている道徳的なところが説教っぽくならないよ
うに伝わればいいな、と。今はわからなくても、あとになって「そういうことだったの
か」と気付くこともあるだろうし。
──MISIAさんが「ハガレン」から受け取っている道徳的な部分は、具体的にはどこの
歌詞に表れているんでしょうか?
特に意識したのは、「悲しみも 喜びも 時間さえ 決して平等じゃない世界で」という
歌詞ですね。ここまで歌ってもいいのかなとも考えたんですが、「ハガレン」には人生
の理不尽なところがどんどん出てくるし、そこにどう立ち向かっていくかというのが1
つのテーマになっている気がするのでそのままにしました。それと「ハガレン」からは
「何かを失ったとしても、その分手に入るものもある」ということも感じて。失くした
ものに囚われていないで、今を見つめながら生きていきたいという思いを歌詞に込めま
した。
──映画の曽利文彦監督が手がけたミュージックビデオも話題を集めています。まさに
「ハガレン」×MISIAという仕上がりの映像ですよね。
映画はエドワードとアルフォンスが中心ですが、MVに登場するのは私とアルフォンスで
すからね(笑)。私以外はすべてCGによる映像なので、撮影の背景はブルーバックだっ
たんですよ。「今、嵐の中で歌ってます」「クルクルしたものが身体にまとわり付いて
います」「大きな柱が出てきました」と説明してもらいながら撮っていたのですが、想
像力をすごく求められるし、「役者の皆さんはこういう状態でよく演技できるな」と身
を持って思いました。私の演技力はともかく(笑)、こんな機会はめったにないし、思
い切りやらせてもらいました。監督は私のメイクと衣装を見て「映画の登場人物みたい
ですね」とおっしゃってましたね。どちらかと言うと人間よりもホムンクルスっぽい雰
囲気だって(笑)。
40%で歌うことを知れば音楽の幅が広がる
──シングル「君のそばにいるよ」と同時リリースされるライブ映像作品「MISIA
SOUL JAZZ SESSION」についても聞かせてください。トランぺッターの黒田卓也さんと
のコラボレーションによるミニアルバム「MISIA SOUL JAZZ SESSION」を引っさげたラ
イブの模様を収めた映像ですが、本当に素晴らしいセッションですね。
ありがとうございます。黒田さんはジャズ畑のミュージシャンだし、タイトルに“JAZZ
”と入っているので私たちがいわゆるスタンダードなジャズをやってるんだと思われが
ちなんですが、それだけではないんですよね。今の世代のジャズミュージシャンはR&B
、ヒップホップ、ソウルなども聴いているし、私がやってきたR&B、ヒップホップもオ
ールジャンルの音楽に対するリスペクトで成り立っていて。例えばエリカ・バドゥや
The Rootsにもジャジーなテイストも含まれているし、ジャンルがどんどん混ざってい
くのは自然な流れだと思うんです。ロバート・グラスパーのようなミュージシャンが登
場したのも、そうですよね。
──グラスパーが登場してから、ジャズ、R&B、ヒップホップの融合がさらに進みまし
たからね。
黒田くんの音楽もすごくクロスオーバーで、ハイブリッドな感じがあるじゃないですか
。私自身も、ソウル、R&Bを軸にして好きな音楽をやっていることには変わりがなくて
。“JAZZ”だけだとこのスタイルが伝わらないと思ったから、「SOUL JAZZ SESSION」
というタイトルを付けさせてもらったんです。ソウルを好きな人、ジャズを好きな人は
もちろん、アフロビートやクロスオーバー音楽が好きな方にもぜひ観てほしいライブ映
像ですね。
──個人的には、今年来日したエリカ・バドゥの音楽性ともリンクしていると感じまし
た。
「Everything」をカバーしてくれたことが縁で、バドゥさんとはすごく仲よくさせても
らってるんですよ。ロサンゼルスのライブに呼んでもらって、開演前の楽屋で音楽の話
をさせてもらったこともありました。「あなたは120%のパワーで歌えるシンガーだけ
ど、40%で歌うことを知れば音楽の幅が広がるはずよ」と彼女から言ってもらったんで
すけど、黒田くんとのセッションではまさにそういう瞬間があったんです。「キスして
抱きしめて」で黒田くんのトランペットと掛け合いしたところはまさにそうで、「40%
で歌う」って二十代のときはわからなかったんです。最近ようやくできるようになって
きた気がしますね。あとは「グローバルな音楽を作りたい」という気持ちもずっとあり
ます。Ichiroさんはロサンゼルス、黒田くんはニューヨークが拠点ですが、今はパソコ
ンでデータのやりとりができるので、24時間、音楽制作ができる環境があって。もっと
視野を広げて制作をしたいし、グローバルに聴いてもらえるものを作りたいですね。
──海外のリスナーも意識しているということですか?
それはずっと思っていることですね。バドゥさんやラウル・ミドンさん、マーカス・ミ
ラーさんにお会いしたときに「最近はこういう音楽をやってます」って作品を渡したい
し、「面白いことやってるね」と言ってもらいたいので。
全部の私を見てほしい
──来年2018年はデビュー20周年イヤーですね。4月には大阪城ホール、横浜アリーナ
で「20th Anniversary THE SUPER TOUR OF MISIA Girls just wanna have fun」が開催
されますが、どんなアニバーサリーイヤーにしたいと思っていますか?
20周年を目の前にして思ったのは「今までのおさらいだけではつまらない」ということ
だったんですよね。1998年にデビューしたときは「ジャパニーズR&Bをやりたい」「ア
ンダーグラウンドのカルチャーをメジャーシーンに持ってきたい」と考えていて。それ
を形にしたのが「THE TOUR OF MISIA」というライブだったんです。バンドメンバーに
DJ Ta-Shiがいて、DJを交えながらサウンドを作っていくことだったり、ステージにダ
ンサーやドラァグクイーンが登場したりするのも、20年前はメジャーのシーンでは誰も
やってなかったんですよ。そのスタイルでR&BもソウルもJ-POPも表現して、ザ・エンタ
テインメントと言えるようなライブにすることを17年くらい続けてきて、始めたての頃
はアンダーグラウンドだったカルチャーもどんどんメジャーになって。そこで感じたの
は「役割は終えた」という思いで、2016年を最後に「THE TOUR OF MISIA」を終えるこ
とにしたんです。
──20周年を目前にして、ライブのスタイルも変化の時期を迎えたということですね。
「アンダーグラウンドのカルチャーをメジャーに」というテーマを外して新しいものを
作ろうという気持ちもあるし、次にやりたいこともすでにあるんですよ。だから来年4
月のツアーの名前も今までとは変えて「THE SUPER TOUR OF MISIA」にして。私自身も
ツアーがすごく楽しみだし、そのために制作をがんばっているところです。
──過去を振り返るのではなく、新しいMISIAさんの表現を体感できるツアーになりそ
うですね。
19年間歌ってきましたが、ずっと同じことをやっているわけではないですしね。好きな
音楽のベクトルは変わってないけど、いろいろな人たちと出会って、たくさんチャレン
ジしながら曲を作ってきたので。今回リリースする2作品もそうで、Ichiroさん、黒田
くんはここ数年で新しく出会った人たちなんです。来年の20周年イヤーでも“これまで
の20年間”だけではなく、“20年目のMISIA”を伝えたいですね。
──20周年イヤーの具体的なプランはあるんですか?
今詰めているところですが、全部の私を見てほしいという気持ちがあります。さっき言
った「THE TOUR OF MISIA」のほかに、「星空のライヴ」や「Misia Candle Night」な
どのコンセプチュアルなライブも行っているんですが、1つひとつがバラバラに存在し
ている気がしていて。私のことをバラードシンガーだと思っている人がライブで「
INTO THE LIGHT」や「LOVE BEBOP」を聴くとビックリすることもありますからね。全部
が私だし、すべて楽しんでやっているということも知ってほしいなって。
──この20年の間にR&B、ヒップホップ、ダンスミュージックは大きな変化を繰り返し
てきました。いろいろなトレンドも生まれましたが、流行のサウンドとの距離はどんな
ふうに取っているんですか?
そこは意識してないかな。やっぱり、音楽は頭で考えるものではないと思うんです。ま
ず自分から自然に出てくるものがあって、それをあとから整理すると言うか。リスナー
の皆さんも、入り口ではできるだけ頭で考えてほしくないんですよね。これはすべての
ミュージシャンが感じていることだと思いますが、まずは聴いてほしいし、観てほしい
し、感じてほしいなって。そういう意味では、今回の2作品はすごくいいものだと思い
ます。映画「鋼の錬金術師」を観ること、「君のそばにいるよ」を聴くこと、「MISIA
SOUL JAZZ SESSION」でライブを体感することを含めて、いろいろな形で音楽を楽しん
でもらえるんじゃないかな。
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