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MISIA 新作『MISIA SOUL JAZZ SESSION』から見えてくる彼女の今と視線の先(前編)
『MISIA SOUL JAZZ SESSION』は、今年の最大の話題作だ。タイトルを見て、「え、
MISIAがジャズ?」と思った人は多いだろう。が、実際、このアルバムを聴いてみると
、いわゆる“ジャズ”とはかけ離れた音楽が聴こえてくる。
1曲目のセルフカヴァー「BELIEVE」は、超へヴィーなグルーヴを持つドラムから始まり
、大胆なアレンジ・チェンジに驚くとともに、最新型のヒップホップに触れる歓びが湧
いてくる。続く新曲「来るぞスリリング」は、アメリカのベテラン・ミュージシャンの
ラウル・ミドンの超高速“口トランペット”のソロがフィーチャーされていて、文字通
りスリリングな音楽が展開される。
このサウンドをMISIAと共に作ったのは、ニューヨーク在住のジャズ・トランぺッター
黒田卓也で、レコーディングは彼のバンドを中心に行なわれた。MISIAはこのアルバム
になぜ“SOUL JAZZ”という名前を付けたのか。その謎を徹底的に解くために、インタ
ビューしてみた。
クラブ・カルチャー、ストリート・カルチャーを通して聴いている部分のほうが多かっ
た
──最初に「MISIAとジャズ」というテーマでお話してもらえますか?
はい。私自身のジャズとの出会いで言いますと、90年代のR&Bやヒップホップシーンで
のジャズの取り入れ方から、ジャズを聴いているんですよね。“ヒップホップ・ジャズ
”って言われているようなエリカ・バドゥだったり、エリカ・バドゥが一緒にやってた
ザ・ルーツだったり。私からすると、ヒップホップを生バンドでやってる人たちですね
。
でももっと掘り下げると、ヒップホップ自体が、歌がない状態でビートをループで繋げ
て作っていくものなので、いろんな音楽を取り入れていくものなんですね。MUROさんと
かDJ NORIさんとか、DJ EMMAさんとか、DJの方たちと話していると、みんな、様々な音
楽を愛してる人たちなんです。そういう意味では、DJの方がジャズっていうものを通る
のは至極当たり前で、ヒップホップのネタの中にもジャズのものもあるし。だから私の
場合、そこからジャズに触れているところがあって。ただ、ピンポイントでジャズを聴
いているわけではないんですね。やっぱりクラブ・カルチャー、ストリート・カルチャ
ーを通して聴いている部分のほうが多かった気がします。
私の好きなエリカ・バドゥもローリン・ヒルもその流れにいるイメージです。他に私は
、80年代のマイルス・デイビスに反応してるんです。私のいちばん好きな80年代のマイ
ルスっていうのは、そういうヒップホップやコンピュータの打ち込みと反応している時
期なわけじゃないですか。マーカス・ミラーさんは、その時期に彼と出逢っているわけ
ですし。
──マーカスさんは今回の『MISIA SOUL JAZZ SESSION』に参加していますね。
はい。去年の黒田くんたちと初めてコラボをしたフェスでお会いしたのがきっかけで。
さらにグルーヴがあつくなっています。私にジャズの基礎があったかって言われると、
ないです(苦笑)。だから今回、「ジャズをやります」っていう言い方だと誤解を招く
なとは思っていました。どちらかというと、ヒップホップを通じて私が捉えてきたジャ
ズなんですね。今回、一緒にやっている黒田くんは、私と年齢が近いこともあって、た
ぶん黒田くんもそういうカルチャーに触れている。で、私と黒田くんが違うのは、彼は
もっと深いジャズのルーツ、いわゆるスタンダード・ジャズって呼ばれるものから学ん
できている人なので、すごく基礎があるんです。
去年、ブルーノート・ジャズフェスティバルで彼と共演して、それが1日限りで終わら
なかったのは、やっぱり彼がスタンダード・ジャズだけで私と関わったのではなかった
からなんです。
私の大好きなアフロビートを取り入れていた。それを同世代でやっている人と初めて出
会って
──黒田くんと共通していたのは、ヒップホップにも触れたジャズっていうことかな?
どうでしょう・・・。私は、R&Bやヒップホップが日本の中でも育ってきた90年代に、
そういうものがやりたいと思ってデビューしたんです。私の印象での話になりますが、
90年代以降はもう海外のシーンでは、R&Bやヒップホップがカルチャーとして固まって
きていた。それが一度完成されて、枝分かれして、よりオーガニックに行く人たちがい
たり、よりビートが強い方向に行く人がいたり、もっとダンスシーンに行く人がいたり
。2000年代始めあたりからオーガニックソウルと呼ばれる人たちが出てきましたけど、
今思い返すと、ジャジーなものが入っていますよね。
私がすごく面白いなと思うのは、黒田くんたちの話を聞いていると、ジャズの人たちも
、いわゆるスタンダード・ジャズだけをやるっていうスタイルが変化して、みんな徐々
にいろんなジャンルと溶け込むようになっていったんですって。
ここ数年、ソウル・ミュージックやジャズや、いろんなジャンルが混じって、また新し
い音楽が生まれようとしている気がしていて、黒田くんとやったときに、「あ! やっ
ぱりそうか!」みたいに思ったんですよね(笑)
──うんうん(笑)
たぶんデビュー当時の私だったら、黒田くんと接点がなかったと思うんですけど、時代
を経て、ベクトルがぶつかったっていう。お互いが聴いている音楽を並べていくと、あ
、これはもう、「ジャズやりました!」って言って終わる話じゃない。それがブルーノ
ートで一緒にやったときの感触でした。「彼といろいろやってみたら、絶対面白いもの
が生まれるな」と思って。
それと、黒田くんは彼のアルバム『ジグザガー』で、私の大好きなアフロビートを取り
入れていた。それを同世代でやっている人と初めて出会って、「ああ、私もそれがやり
たい。それをやるまでは、1回のライヴだけじゃ足りない」(笑)っていうのが私の感
想で。「ツアーをやりたい、もっとライヴをやりたい」って、ブルーノートのライヴが
終わった瞬間に言ってたんですよ。
「これ1回じゃ足りない!」って、ステージを降りた瞬間に言ったんで
──「もう1回やりましょう!」って。
はい。黒田くんに「これ1回じゃ足りない!」って、ステージを降りた瞬間に言ったん
です。プロデューサーも同じ気持ちで、「面白いよね」っていう話になって、それで「
ツアーをやろう」っていう話になった。そんなときに「最後の夜汽車」のカヴァーのお
話が来たんです。
MISIAは、新しい音楽が誕生する瞬間に立ち会う歓びを予感して、アルバム『MISIA
SOUL JAZZ SESSION』の制作を希望した。その予感は、去年、ブルーノート・ジャズフ
ェスティバルで黒田と共演した直後に、すでにあったという。
全9曲中、6曲がMISIAがこれまでに発表してきた曲のカヴァーなのだが、それらは黒田
の手によって2017年の世界の音楽シーンに向けてアップデートされている。その他、新
曲が2曲、それに甲斐バンドの名曲「最後の夜汽車」のカヴァーが収録されている。
一見、時代が複雑にクロスする選曲だが、MISIAはまったくブレることなく、すべての
楽曲を歌い切っている。そんな離れワザが可能になったのか、さらに話を聞いてみた。
メロディを聴いた瞬間に「あ、これ絶対、私に合うと思います」って
──ちょうどいいタイミングで、ドラマ主題歌として「最後の夜汽車」をカヴァーする
オファーが来たんですね。
はい。
──「最後の夜汽車」を初めて聴いたときの感想は?
もう、一発で「歌いたい!」って思いました。「じゃあ、アレンジはどうしようか」っ
てなったときに、私は「今までの感じではやりたくないなあ」とちょっと思っていて。
いい意味で“いなたく”したかった。ただ、普通の人が想像する“いなたく”ではイヤ
だと思っていました。そのとき、プロデューサーから「アレンジを黒田くんに頼もうよ
」って言われて、「ああ! それはいい!」と。もうそれで、「最後の夜汽車」をどう
歌うか見えました。
昭和の大阪の感じが出てくるといいなあ」って言ったら、黒田くんがそういうトラック
をニューヨークから送ってきたんです
──イントロのピアノのフレーズが、凄くいい!
黒田くんが、「大林武司くんが弾くと思ってあのフレーズを考えた」って言っていたの
で、「それはすごいわかるな」と思って。大林くんのピアノって、水面を妖精か何かが
飛んだ時にできる小さくて美しい波紋みたいな音だなって思うんですけど・・・。その
ピアノにメロディアスなベースとドラムが、すごい絡み方をしている。「ああ、いい形
になったなあ」と思って。ドラマ自体も舞台が昭和の時代なので、アレンジをオーダー
するときに、「昭和のセピア色みたいな感じが出てくるといいなあ」って言ったら、黒
田くんがそういうトラックをニューヨークから送ってきたんです。
──驚いた?
はい。私はレコーディングにまったく立ち会ってない。あと、デモもなかったですから
、いきなり本番。黒田くんが「これで歌をレコーディングして」って。実は今回の『
MISIA SOUL JAZZ SESSION』は、全曲、そうなんです。デモ段階がまったくない。ほと
んどブルーノートのライヴでやっていた曲っていうのは大きいですけど、それでも1回
だけだし、新曲に関してはもうゼロですから。
──不安はなかった?
なかったですね。前回、ライヴやったときの信頼感で、「絶対大丈夫」って。彼も、自
分の中でアレンジが見えてるときは「任せとけ!」って言っていて。
──「絶対、良くなるから大丈夫」と。
うん。「やってみてから感想をもらえる?」っていうのは一切なかった(笑)。だから
逆に「ああ、そこまで見えているんだったら任せよう」って。
新しいアルバムが新曲ばかりである必要性があるのかって(笑)ちょこっと思い始めて
いる部分があって
──滅多にないプロジェクトだね。相手のオーダーに沿って作るっていうスタイルでは
なかったんだ。
はい。私としても、今回求めていることっていうのは、そうじゃなかったんですよね。
「ここをこう直して」って感想を言えるくらいなら、「だったら自分でアレンジするし
」って話になってしまうので(笑)
──ははは(笑)
自分が見えているんだったら、自分でアレンジすればいい話ですからねえ。そうじゃな
くて化学反応で、いわゆるセッションをやりたいってことがあってのレコーディングだ
ったので、すごく面白かったです。
──それでタイトルが『MISIA SOUL JAZZ SESSION』なんだ。その“セッション”って
いうニュアンスは、“星空のライヴ”などで生バンドをバックに歌ってきたキャリアと
関係があるのかな?
あると思います。その面白さを知っているからこそ、やってみたかった。バックのコー
ドやフレージングによって、アドリブも変わるし、歌い方も変わるし、歌のリズムも変
わる。やっぱり歌っていうのは言葉があるっていうのが、最大の特徴だと思っていて。
メッセージっていうものが大きいと思っているんですけど、ひとりの人間から出される
メッセージって、どこか普遍的なものがある。変わらないものがあるんですよね。で、
その変わらないものを、新曲の度に形を変えて言葉にする作業をやっていますけど、…
…新しいアルバムが新曲ばかりである必要性があるのかって(笑)ちょこっと思い始め
ていた部分があって。なぜかというと、私のメッセージは変わらないから、歌詞は同じ
でメロディが変わってもいいんじゃないかという。
『MISIA SOUL JAZZ SESSION』を、皆さんは“セルフカヴァー”って言うんですけど、
私は新曲のつもりでやっているんですよ(笑)
──極端に言えばね。
そう、極端に言えば。たとえばローリン・ヒルは、2、3枚しかアルバムを出してないの
に、毎回“新しいライヴ”をやっている……これって、すごいことですよね。ははは!
──過去の楽曲を、違うやり方で聴かせたりしているよね。
それもひとつの音楽の形だと思っています。今はクラシックって言われている音楽でも
、昔はいわゆる流行曲だったわけですから。
私たちはR&Bやヒップホップが、一種の流行からクラシックになる過程を生きていると
思うんですよね。クラシック化していく音楽を、この時代の中で歌っていくっていうの
は、必要な過程のような気がしていて。だから今回の『MISIA SOUL JAZZ SESSION』を
、皆さんは“セルフカヴァー”って言うんですけど、私は新曲のつもりでやっているん
ですよ(笑)
──そういう意識はいつごろからあったの?
いわゆるジャズだったり、そういうものを意識し始めたのは、2013年か2014年くらい。
思い返してみると、「15周年から、今回の方向は決まっていたな」とは思いますね(笑
)
──そこから5年ぐらい掛かって、次のステップに行こうっていう。
そうなんです。あのときに蒔いた種が、ここに来て芽吹いたっていうのがすごく面白か
ったです。
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