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強敵は内村、MISIA、大橋の3人だった──!? 映画『SING/シング』日本語吹き替え版
演出・三間雅文氏インタビュー
動物たちが暮らす世界を舞台に、倒産寸前の劇場を再建すべく奮闘する劇場支配人の
バスター・ムーンをはじめ、さまざまな事情を抱えながらも歌手を夢見る動物たちが活
躍する映画『SING/シング』。
全世界で空前の大ヒットを記録した『ミニオンズ』(15年)『ペット』(16年)に続
く、ユニバーサル×イルミネーションのタッグに加え、吹き替え版キャストには、内村
光良、MISIA、長澤まさみ、大橋卓弥(スキマスイッチ)、斎藤司(トレンディエンジ
ェル)、山寺宏一、坂本真綾、田中真弓、宮野真守、大地真央ら、俳優、アーティスト
、そしてアニメファンにはおなじみの声優陣まで豪華な面々が集結。公開前から映画フ
ァンのみならず、アニメファン・声優ファンからも注目を集めていた。
公開から7週経った今もなお劇場には多くの人がリピーターとして足を運び、累計興
行収入は早くも46億円を突破するなど、歴代イルミネーション作品で史上最高のスピー
ドで勢力を拡大し続ける本作。「おたぽる」では、日本語吹き替え版の演出を担当した
三間雅文氏に、吹き替え版『SING/シング』が完成に至るまでの過程や苦労、そしてキ
ャスト陣の裏話までたっぷり話を伺った。
* * *
──まず三間さんが、本作で演出を務めることになった経緯を教えてください。
三間雅文(以下、三間) 僕が長い間お世話になっているプロデューサーからご連絡を
いただいて。作品資料をもらったんですけど、僕英語がわからないんで、「『SING/シ
ング』っていう映画なんだ~」ぐらいに思いながら会いに行ってみたら、試写室に連れ
て行かれて、わけもわからないまま映画を観させられて(笑)。
──そのときは字幕版だったんですか?
三間 いえ、全編英語版です。最初のほうはセリフが全然ないので、字幕版だと思って
観ていたのに、後のほうになって、「あれ? 字幕ないんだ。このパイロットは何分な
んだろう」と。ワイヤーフレームとか未完成だったので、10分ぐらいのフィルムだろう
と思っていたんですが、100分くらいあって(笑)。でも、最初は“観させられた”と
いう印象だったのが、英語がわからなくても面白かったんですよ。わからないのに泣け
る。「何だったんだ?」という気持ちのまま打ち合わせが始まって。
でも、その後で一度お断りしました。外画(声優業界用語、日本外で制作された映像
作品のこと)の吹き替えはずっとやってこなかったし、あえて踏み込まなかったんです
。
でもそれをこの映画に誘ってくれたプロデューサーに言ったら「お前はもう30年やっ
てきてるんだから、ただ怖いだけ。新しいことに踏み込め」と。近年の声優ブーム、ア
ニメブームを受けて、「『SING/シング』も小さいエリアの中だけじゃなく、もっとも
っと拡げていく意味でお前を呼んだんだ」って言われて。僕にはそういう使命があるん
だなと思い、「やらせていただきます!」と返事をしたのが最初ですね。
──ということは、三間さんにお声がかかったときには、アニメで活躍されている声優
を起用しよう、という大枠はある程度決まっていたんですね。
三間 途中から参加したので詳しくは知りえませんが、おそらくそうだと思います。そ
こから先は、僕が普段アニメを主戦場とされている声優さんたちの中で、歌唱力がある
のは誰かっていうのを考えていったわけです。
ただ歌のプロではありませんので、声優さんがどれだけ歌が上手いかっていうのはあ
まり分かりませんし、そこはこの映画に誘ってくれたプロデューサーが過信したのかも
しれません(笑)。チームに入ってから慌てて資料を見たり、いろんな人に意見を聞い
て候補を集めていきました。
──では、山寺宏一さん、坂本真綾さん、田中真弓さん、宮野真守さんといった声優の
みなさんは三間さんのご人脈でキャスティングを?
三間 “人脈”と言うとなんだか偉い感じに聞こえますが(笑)、一応候補は出させて
いただいて、オーディションをさせていただいて。というのも、各キャラクターにアメ
リカのスタッフがキャラクターにどんなイメージを持っているのかが、僕にはわからな
い。
だから、候補を出すにしても、リアルなお芝居ができる方、元気で活発なイメージを
与えることができる方、そして何でもできる万能タイプの方と、3方向から候補を出し
たりとか工夫しました。結構な大御所の方にもオーディションに参加してもらっていま
す。
その上で、たとえばベテランの田中さんには「すみません、僕、吹き替えは初めてな
ので、どうやったらオーディションに受かるのか、僕にも分かりません」と素直にいっ
て相談させてもらったりもしました(笑)。田中さんはたくさん外画も経験されている
ので、「これは原音に似せなきゃダメなのよ!」って。あれは大きかったです。
──基本的にはオリジナル版キャストの声や歌声に寄せていくということですか?
三間 そうですね。そこを外してしまうといけないので、なるべく外画の歌手の方たち
の骨格を見て、似ている人の中から選出したり。それプラス、声がそっくりなだけじゃ
なくて、「こういうコースをお持ちの方を使うと面白いですよ」という変化球も入れた
つもりです。日本語の“間”が、アメリカの“間”と同じかどうかは僕にはちょっと分
かりませんが、この人だったらこっちがコントロールして、ある意味面白いものを引き
出せるかなっていう可能性を持っている人を候補に入れました。
──その結果、歌もお芝居も上手で実力のある、アニメファンはもちろん、エンタメ好
きなら、大抵の人が知っているだろう顔ぶれが揃いました。今回の作品では、音楽プロ
デューサーに蔦谷好位置さんのお名前がクレジットされていますが、三間さんは、具体
的にどのようなことを担当されたのでしょうか?
三間 パート分けをしていて、歌の部分は全て蔦谷さんにお任せしているんです。「収
録に来て下さいよ」と声をかけていただいたり、最初は音楽の方のスケジュールも全部
出していただきましたが、蔦谷さんと最初にお会いしたときに、どう見ても僕より年が
下だなって思ったんですよ。僕が年下だったときに年上の方がきちゃうと、萎縮してし
まうなと。「どうですか?」って蔦谷さんが気を遣ってくださるのが頭に浮かんでしま
って。そうすると、蔦谷さんが作ったものじゃなくなってしまうと思ったので、歌唱シ
ーンや音楽シーンは蔦谷さん、演技パートはこちらが担当するという形で分かれました
。
一箇所だけ、最後のライブシーンでキャラクターたちが大勢で歌うところがあって、
そこだけ、僕らが録っているときに蔦谷さんがいらっしゃって歌唱指導をしていたんで
す。そのとき初めて蔦谷さんの仕事を目の当たりにしたんですが、彼のディレクション
を見て「すごい!」ってものすごく感動して。ミックスの作業は2人での共同作業にな
るので、より信頼関係を築けて、コミュ二ケーションも取れました。
5、6回しか会っていないのに、最終日が終わった後に「飲みに行きましょう!」って
、みんなで大パーティーをしたんです。そんな現場は今までなかったので、「短期間で
みんなで一つになった、楽しかったな」というのがこの作品の印象ですね。
──“歌”がテーマだった『マクロスF』の印象も強いので、そのあたりも起用された
理由の一つなのかなと思っていました。
三間 僕に声を掛けてくださったプロデューサーは『マクロスF』自体は知っているで
しょうけど、僕がやっていたと知らないんじゃないかな……(笑)。また『マクロスF
』で言うと、実は歌パートは担当していないんです。例えば、疲労困憊しながらシェリ
ル・ノームが「私が……」って立ち上がって歌うシーンも4小節まではこっちで録りま
すが、そこから先は歌唱音源とつなげているんですよ(笑)。
──『SING/シング』も音楽映画なので、セリフと音楽が混ざっているというか、境界
線が曖昧なシーンもありますが。
三間 そうですね。例えば、マイク(ジャズ・ミュージシャンのネズミ/演:山寺宏一
)が風に飛ばされそうなときに、歌の途中で「んっ!」「あっ!」と叫ぶシーンがある
んですが、あれは山寺さん流石でしたね。
違和感なく繋がって聴こえていると思いますが、「んっ!」「あっ!」っていうリア
クションを最初に録って、後から歌を重ねているんですよ。歌を最初に録ってからリア
クションを重ねるのは、歌を聞きながらその高揚感の中でリアクションをすればいいの
で簡単だと思います。でも、その逆だと、最初にリアクションを録っているから、歌の
終わりにいくまでそこのテンションが分からない。そこで帳尻を合わせる山寺さんって
やっぱりすごいなと改めて思いました。
アフレコが終わった後に、山寺さんの車に乗せていただいたんです。そしたら、車内
でずっと「マイ・ウェイ」(劇中で山寺演じるマイクが歌うフランク・シナトラの楽曲
)を聞いているんですよ。おそらく自宅のお風呂とかでも聞いているんだろうなと思い
ます、それくらいストイックな方なんですよ。あれだけのキャリアがあれば、「もう必
要ないんじゃない?」って思っちゃいますが、ただモノマネするんじゃなくて、自分の
「マイ・ウェイ」にしようとしているのが見えて、やっぱりこの人「超プロ」だなと。
相当なストレスだったと思いますよ。
──その他のキャストさん方で印象に残ったエピソードがあれば教えてください。
三間 最初、ヒツジのエディを演じた宮野さんは、2パターン録らせてもらったんです
。エディって、最初から宮野さんっぽいなって思っていたんですよ、なんとなくですが
(笑)。宮野さんとは『ポケットモンスター』で4年近くご一緒していて、そのときの
彼の佇まいがすごくエディっぽくて。「そのまんま、ナチュラルな宮野さんでやっても
らっていいですか?」とお願いしました。
もう一つは、エディってヒツジなので歯周りがすごく大きくて、喋りにくいっていう
のがあって、「歯を意識してやってもらっていいですか?」と。「コミカルにですか?
」って聞かれたので、「ちょっと作り込む方向で。この子の印象を強めたいんです」っ
て2つを録って、アメリカに送りました。2つ目の作り込んだほうをやらせたときに、宮
野さんってあんまりそういう芝居をしたことがなかったのか、楽しそうでした(笑)。
──いわゆる“イケメン”なキャラクターを演じることが多いですもんね。
三間 そうなんです。でも、そっちはノリすぎで(?)はみ出ちゃったのか、NGになっ
てしまって(笑)。なので今回は素のほうの演技になっています。普段は飄々として見
えますけど、ノッたら本当に情熱が強い彼の欲張りさが裏目に出てしまったオーディシ
ョンでしたね(笑)。
また、『SING/シング』が上映されてから、知り合いからSNSなどで感想が届くので
すが、ブタの専業主婦を演じた坂本さんについては、「なぜ、坂本さんと斎藤さんの歌
(テイラー・スウィフトの「シェイク・イット・オフ」)だけ吹き替えを作らなかった
んですか?」ってお叱りを受けます。
ちゃんと吹き替えていますから! オリジナル版のリース・ウィザースプーンとソッ
クリすぎて、吹き替えしてることに気付かない人もいるぐらいなんですよね。坂本さん
も舞台挨拶で、「私と斎藤さんが歌った歌は英語版だったんで、何で吹き替えて歌わな
きゃいけなかったのかわかりません」ってコメントして爆笑をとっていましたが(笑)
。「あれも坂本さんと斎藤さんが歌っています」って言ったら「そのつもりでもう一回
観よう」って言ってくれる人も結構いますね。
坂本さんの歌を録った後、「そっくりすぎて、イジる所無くコピーでしたよ」って蔦
谷さんが言っていて。「これ録る必要あったのかな?」って思うくらい、坂本さんが原
音に寄せてきたんです。こちらとしても、坂本さんだったらイケるなと思っていました
が、そういう視聴者の反応も面白かったです。
坂本さん演じるロジータとペアを組むグンター役を演じた斎藤さんもグンター役の芝
居心がすごくありましたね、やっぱ漫才もコントもやっているからでしょうか。
──シンガーに憧れるゴリラのジョニーを演じた大橋さんや、内気なゾウ・ミーナを演
じたMISIAさんは、今作でお芝居に初挑戦ということでしたが、やはり三間さんが演技
を指導されたんですか?
三間 僕がというより、お2人が頑張ってくれました。今回強敵だなと思ったのは、内
村さんと大橋さんとMISIAさんだったんです。大橋さんとMISIAさんはお芝居を観たこと
がないという不安、一方で内村さんはお芝居もコントもたくさんやられているし、ドラ
マや映画で監督もされているし、本も出しているし……。そんな方をどう演出するか、
近寄るかっていろいろ考えましたね。
大橋さんは、まず彼の気持ちになってみて“初めてお芝居をしなきゃいけない”って
いう不安なときに、どう近づいたら安心するかなと考えて。「今日はよろしくお願いし
ます! 僕、吹き替えは初めてなんです」って先にお願いをしちゃったんですよ。“こ
の人も初めてだったら何でも言える”っていう感じにしたほうがいいなって思って。そ
したら、「僕こそ芝居初めてなんで!」「じゃあ初めて同士でなんとか2人で頑張りま
しょう」と。MISIAさんも同じです。僕から言うのもおこがましいんですが、大橋さん
ととても仲良くなれたなという気はしますね。
2人が良かったのは、1回で裸に慣れること。アーティストの方で演技をしたことがあ
る人って、自分の演技プランがあるからその通りに最初から洋服を着てくるんです。そ
れは個性でもありますが、2人は演技初挑戦ということで、一気に裸になって言われる
通りの洋服を着てくれて。テストで「こういう気持ちでやりましょう!」て提案したら
、その通りにスッと入ってくれて。「この人たちすごいな!」って思いました。
──難敵・内村さんはいかがでしたか?
三間 内村さんは2人の真逆。いろんな経験があるから、当然演技プランも持ってくる
だろうと思っていたし、みなさんのイメージ通り、すごくストイックな方なので研究も
かなりされていました。「(声優なんだから)発声をちゃんとやらなきゃいけない」っ
て、家でも練習をしていたみたいなんです。「じゃあ次回からもっとフランクにいきま
しょう!」ってゆるくゆるく、ほぐしていきましたね。
MISIAさんと大橋さんは、元々エンターテイナーなので何回もやると、どんどん膨ら
まし始めるんですよね。だからこの2人はほぼテストでOKなんです。MISIAさんなんて、
本番は一個も使っていません。本人も最後には気付いて、「私、テストが一番いいみた
い」って(笑)。
一方で内村さんだけは何回もやって、ある意味“疲れさせる”というか、自分の演技
プランに挑むことを辞めさせるくらい何度もやりました。そうやって、和ませていって
、この3人という強敵をなんとか『SING/シング』の世界に入れることができたかなと
。
──ロック好きなヤマアラシの少女・アッシュを演じた長澤まさみさんはいかがでした
か?
三間 僕は『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』でご一緒させて
いただいているので、もう言うことはありません!(笑) 僕はお芝居しか聴いたこと
がありませんでしたが、歌唱のほうも蔦谷さんたちが「長澤まさみは最高ですから!」
って太鼓判を押していて。実際に歌を聴いて完璧でしたね!
──「新しいことを」と『SING/シング』オファーを受けたというお話でしたが、振り
返ってみて、手ごたえはいかがでしょうか?
三間 「今度はこうしてやろう」っていうのが浮かんでくるので、新しいことにチャレ
ンジできたかなという気はします! 4カ月くらいやっていたんですけど、やっている
ときは辛かった。今終わってインタビュー受けていて楽しいことが語れますけど、途中
でインタビューを受けていたら「早く終わりたいんです」しか言えなかったです(笑)
。
最初は難しくて断ったのに、でも、やってみたら最終的には楽しかった。「新しいこ
とに踏み込め」とこの映画に誘ってくれたプロデューサーが言っていたのは、こういう
ことだったのかなと。どん底までとはいきませんが、僕からすると、『SING/シング』
のキャラクターたちのように“新しいものへの入り口”に立ったような気分でした。続
編の制作も発表されたので、また採用されたらいいですけどね……!
* * *
まだ映画を観ていないという人は、急いで劇場に足を運び、吹替版キャストの熱演、
熱唱をその目と耳で確かめてほしい。すでに映画を観たという人も、字幕版、吹き替え
版の両方を見ることで、より『SING/シング』の世界を楽しむことができるだろう。
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