音楽シーンの新たな時代を予感させるアルバム=Mayday
サーチナ 11月17日(日)12時16分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131117-00000003-scn-ent
時代の大きな変化。当初からインパクトがあった。しかし時を経るにつれ、それがど
れだけ重要な出来事だったか、人々は改めて思いなおすことになる。A-sketchから13
日に発売された台湾“発”の超人気バンド「Mayday(メイデイ、五月天)」のアルバム
を何度も何度も聴いた。そして、これは新しい時代の幕開けを告げる事態かもと思えて
きた。
タイトルは『Mayday×五月天 the Best of 1999-2013』。といっても、単なる
ベストアルバムではない。まず、以前に発表された録音とは多少ことなるアレンジのも
のがある。新たに録音されたのか、あるいは未使用音源を使ったのかもしれない。それ
より大きなのは、GLAYのTERUが、そしてflumpoolが共演した曲も収録されていることだ
。
まず、1曲目の「dancin’ dancin’」。Maydayの「傷心的人別聴慢歌」にGLAYの
TAKUROが日本語の詞をつけた。原詞を訳したと言うよりも、雰囲気を生かして自由に作
詞した。衝撃的な作品が出現した。
音楽に国境はないといっても歌の場合、言葉の壁はどうしても生じる。歌詞の理解そ
のものだけではない。雰囲気、あるいは慣れの問題もある。ロックの場合、英語ならば
雰囲気の問題はない。もともとが欧米系の音楽だからだ。日本語の歌なら慣れ親しんだ
言葉であり、意味がストレートに伝わってくる。これも問題なし。しかし中国語の場合
、多くの日本人は言葉の響きに違和感を覚えてしまうのではないだろうか。
それを一気に打破したのが「dancin’ dancin’」だ。ボーカルにはGLAYのTERUが加
わった。これまでMaydayになじみがなかった人も「Mayday作品って、こんなにカッコい
いのか」と十分に納得できるはずだ。「ついに日本、本格始動第1弾!」と銘打ったア
ルバムのイントロダクションとして、心にくいばかりの“演出”だ。
2曲目は上映中の映画『おしん』の主題曲「Belief~春を待つ君へ~」だ。flumpool
との共演。そして3曲目の「満ち足りた想い出(知足)」からは、古くからのMaydayフ
ァンもよく知る世界が展開されていくことになる。
Mayday自身が選曲したとあって、名曲ばかりだ。前半には「満ち足りた想い出(知足
)」、「一歩、一歩(歩歩)」など、しっとりとしたバラードが主に並ぶ。そして次第
に、アップテンポな曲が登場する。曲順に聴き進んでいて、自分が足を運んだMaydayの
コンサートを「追体験」してしまうファンも多いのではないだろうか。
そして「OAOA」では再びflumpoolとの共演。最近になりMaydayの音楽に触れることに
なった人も日本語の歌唱ということで、気楽に聴けるのではないだろうか。そして最後
は「やさしすぎて(温柔)」でしっとりと締めくくる。
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Maydayの「日本、本格始動」を知った時、ちょっと気になったことがあった。これま
でのファンとMaydayが新たに獲得するであろうファンの「経験のギャップ」だ。古くか
らのファンは、彼らの音楽、彼らの活動に触れることのできる決して多いとは言えない
チャンスを、祈るような気持ちで追い求めた。
来日すればイベント会場に駆けつけた。狭い日本とはいってもやはり遠隔の地から足
を運ぶために、時間も金も使った。台湾などのコンサートに足を運んだファンもいる。
Mayday作品を深く知りたいと思い、中国語を勉強してモノにしたファンもいる。彼ら/
彼女らは間違いなく、「何があっても一生、ついていく」と決意している。Maydayの今
後を考えても、絶対に大切にしなければならない人々だ。
一方で、Maydayは日本でさらに「桁違いの浸透」を目指すことになった。関係者も「
Maydayならば、絶対に多くの日本人ファンを獲得する力がある」と信じているはずだ。
しかし日本人の多くは中華圏のミュージシャンにそれほどなじみがない。したがって日
本におけるMayday情報発信のしかたには工夫をしなければならない。
アルバム『Mayday×五月天 the Best of1999-2013』の話に戻ろう。古くからの
ファンは今までの雰囲気と違うことで、違和感を覚える面もあったようだ。たとえば、
日本語の曲名だ。そのまま訳せば「地球の表面を離れて」となるはずの「離開地球表面
」。壮大なSFのシーンをも思わせる原題が「瞬間少年ジャンプ」という、コミック誌の
名をもじったような名になってしまったことに驚いてしまったファンもいるようだ。
私も多少なりとも以前からMaydayを知っているひとりとして、「これはまた、大胆な
」と思ったことを告白しておく。ただ、中華圏のさまざまなことがらを日本に紹介する
大変さを知っている身としては、「関係者も苦労しているな」と思ったのも事実だ。
さまざまな試行錯誤はあるだろう。ただ、Mayday自身と関係者の「多くの日本人に
Maydayの魅力を知ってほしい」という覚悟が続くかぎり、Maydayがらみの情報発信はど
んどん“進化”していくと、信じたい。
それから、新たなファン、あるいはこのアルバムなどでMaydayを好きになった、ある
いは好きになりかけている人に伝えたいことがある。
Maydayの音楽が特に「中華風」であるわけではない。むしろ逆だ。『Mayday×五月天
the Best of1999-2013』の収録曲でも、「孫悟空」では中央アジアをなんとなく
連想させるアレンジが使われているが、それ以外、とくに「中華風」のサウンドはない
と言ってよい。
この文章の冒頭部分でMaydayを「台湾“発”の超人気バンド」と紹介した。Maydayを
「台湾の超人気バンド」と言うことはできない。台湾出身であることはもちろんだが、
すでに世界の音楽シーンを大きく変えていく力を持つバンドだからだ。
ただ、Maydayの創作の原点にはやはり、中華文明の後継者である「台湾人」としての
あり方が垣間見える。
例えば、「知足」の曲名だ。中国語圏では常識でもある「少欲知足」という熟語が背
景にある。「欲望を抑え、限界を知れ」という教えにもとづく言葉と知っていれば、「
かつて愛した、そして今でも愛している女性に対する思いを断ち切るしかない」という
、この曲のタイトルに込めた切々たる気持ちを、より深く感じることができるはずだ。
なにも難しいことはない。作品は作品として味わえばよいことだが、たとえばビート
ルズを知るのに、彼らの出身地であるリバプールの当時の状況を知ればビートルズ作品
を見る目が変わってくるのと同じことだ。Maydayについても、彼らの精神の原点を知れ
ば知るほど、楽しみは増す。
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日本の音楽、J-POPはアジアの音楽界をリードしてきた。こう言っても、傲慢ではな
いだろう。日本はアジアの多くの国に先駆けて先進国入りを果たした。そのことが音楽
文化にも、大きな推進力をもたらすことになった。
しかしここにきて、Maydayというバンドが出現した。日本の音楽界はこれまで欧米を
注視して新たな要素を取り入れ、さらに日本人ならではの個性を加えるという創造の道
を歩んできた。しかしMaydayの「日本本格始動」は、音楽シーンの新たな状況の到来を
示すものではないだろうか。
Maydayの実力は本物だ。日本人、台湾人、あるいは欧米人といった区別には関係なく
、彼らの音楽の魅力のとりこになる人は多いだろう。よい作品を作りあげる音楽家が、
国籍には関係なく、世界の多くの人に認められていく。そんな時代の到来だ。そしてア
ジア諸国からも、日本の音楽シーンに“ゆさぶり”をかける刺激が次々に飛び込んでく
る。
J-POP、C-POP、あるいはK-POPという色分けそのものに意味がなくなってくる。
Maydayの『Mayday×五月天 the Best of 1999-2013』を聴いて、そんなことまで
予感してしまった。(編集担当:如月隼人)