https://natalie.mu/music/pp/misia08
人生の中に音楽があり、音楽の中に人生がある
今年デビュー20周年のアニバーサリーイヤーを迎え、精力的な活動を続けているMISIA
から約3年ぶりのオリジナルアルバム「Life is going on and on」が届けられた。本作
にはドラマ「義母と娘のブルース」の主題歌「アイノカタチ(feat.HIDE GReeeeN)」
や映画「鋼の錬金術師」の主題歌「君のそばにいるよ」のほか、すでにライブで披露さ
れているファンクナンバー「LADY FUNKY」、米倉利紀とのコラボ曲「恋人失格(feat.
米倉利紀)」など全12曲を収録。「人生の中に音楽があり、音楽の中に人生があると実
感するようになりました」と語るMISIAが20年間培ってきた音楽が濃密に反映されてい
ると同時に、この先のビジョンを提示する作品に仕上がっている。
音楽ナタリーではMISIAにインタビューを実施。「Life is going on and on」の収録曲
のほか、20周年イヤーを通して感じたことについてたっぷり語ってもらった。
これまでの出会いが今につながっている
──今年はデビュー20周年イヤーで、4月に大阪・大阪城ホール、神奈川・横浜アリー
ナで行われた単独公演「20th Anniversary THE SUPER TOUR OF MISIA Girls just
wanna have fun」をはじめ、アニバーサリー的な活動が続いています。手応えはどうで
すか?
今もツアー中(「20th Anniversary MISIA 星空のライヴX Life is going on and on」
)ですし、今年はたくさんライブをやらせてもらっていて。調べてみたら、20年のうち
ライブをやっていない年はないんですよ。20年間いろいろな形でライブを続けてきたこ
と、歌を歌い続けてきたことが今年の活動につながっているんだと思います。
──これまで積み重ねてきたものが、アニバーサリーイヤーを彩っていると。
そうですね。しかも、これまでの出会いが全部今につながっているんですよね。20年近
く一緒にやっている方もいれば、ここ数年の間に出会ったミュージシャンもいて。点で
はなく、線になっていくことでいろいろな活動ができているというのかな。「THE
SUPER TOUR OF MISIA」もそうなんですよね。私のライブの3本柱である「THE TOUR OF
MISIA」「MISIA星空のライヴ」「MISIA Candle Night」をすべて詰め込んだライブにし
たいとプロデューサーとも話していました。大編成のストリングス隊やダンサーを含め
て総勢50名ほどのメンバーが参加したので、ライブ前の円陣がすごく大きかったんです
が(笑)、いろいろなジャンルの楽曲をフルスペックで楽しめるライブになったんじゃ
ないかなって。私も楽しかったし、観てくださった方にも楽しんでいただけたと思いま
す。あと、念願だったツインバンドに近い形でやれたのもうれしかったですね。スティ
ーヴィー・ワンダーやジェームス・ブラウンがタイプの違う2つのバンドをステージに
並べて楽曲によって使い分けるというスタイルでライブをしていて、憧れのやり方で…
…。私の音楽のジャンルはR&B、ヒップホップ、ソウル、ハウス、ジャズ、EDM、バラー
ドと多岐にわたっているので、各参加ミュージシャンの得意な分野を引き出しながら幅
広い曲を演奏してもらって歌ってみたいと思っていたんです。
過去を振り返り、今を見つめ、未来へのベクトルを決める1年
──そして12月26日にはニューアルバム「Life is going on and on」がリリースされ
ます。オリジナルアルバムの発売は前作「LOVE BEBOP」以来、約3年ぶりですね。
「そんなに空いた?」という感じですね(笑)。まあ昨年にはミニアルバムの「MISIA
SOUL JAZZ SESSION」をリリースしたので、そういう感覚がないのかもしれません。
──「MISIA SOUL JAZZ SESSION」で始まったジャズへのアプローチは、今回のアルバ
ムでも続いていますね。今作にはシングル曲の「アイノカタチ(feat.HIDE GReeeeN)
」「君のそばにいるよ」も収録されますが、アルバムの制作に入ったときはどんなビジ
ョンを持っていたんですか?
まず20周年を迎えるにあたって、「この周年をどう捉えたらいいだろう?」と考えてい
た時期があって。過去を振り返るだけではつまらないし、そんな1年にはしたくないと
思ったんですね。そんな中、「周年というのは、過去を振り返り、今を見つめ、未来へ
のベクトルを決める1年」と言ってくれた方がいて、とてもいいテーマだなと感じたん
です。なので、ライブの制作のときもアルバムを作るときも、そのテーマを常に念頭に
置いていました。今まで一緒に楽曲を作ってきたミュージシャンとスタジオに入ったり
、初めてお会いする方と曲を制作したり、そういうことを繰り返す中でだんだんとアル
バムの全体像が見えてきたんです。私としては“過去を振り返る”こともやったつもり
なんですけど、アルバムができあがってみると新しく出会った人たちと一緒に作った曲
が多くなって、私は今感じていることを形にしたいんだなと改めて思いました。あとデ
ビューしてしばらくは歳上のミュージシャンにいろいろと教えてもらうことがほとんど
だったんですが、同世代や歳下のミュージシャンと一緒に仕事することもどんどん多く
なって。アルバムを作り終えたときに、そこも変わってきた部分だなと感じました。
「歌手とはなんぞや?」と自問自答してきた
──「Life is going on and on」というタイトルは、現在行われているツアーの題名
と同じですね。
はい。ツアーのタイトルを決めたのは総合プロデューサーなんですけど、実はその由来
について詳しくは聞いてなくて。最初はアルバムのタイトルは別に考えていたんですよ
。いろいろと候補があって、「これでいく!」と決めたあとにひっくり返すということ
を続けていたんですが(笑)、あるときから「Life is going on and on」ってアルバ
ムタイトルにもすごくいいなと思えてきて。ライブで歌っていて20年前と今とで何が違
うかといえば、「そこに20年の人生がある」ということを感じられることなんです。聴
いてくださってる方もきっと同じじゃないかな。人生の中に音楽があり、音楽の中に人
生があるというか、デビューした頃はリスナーやお客さんに共感を求めていたけど、今
は共に生きているような感覚があって。そういう思いが「Life is going on and on」
というタイトルにつながっているし、私が伝えたいメッセージにも一番合うと思ったん
です。
──音楽と人生が共にある、と。
そうですね。だから私にとっては、「Music is going on and on」でもあるんです。私
はたぶん引退しないし、一生歌い続けていくと思っているので。あとね、「やっと歌手
になれた」と思えるようになったんですよ。ずっと「歌手とはなんぞや?」と自問自答
してきたんですけど、20年経ってやっとその答えがわかった気がしていて。このことは
「THE SUPER TOUR OF MISIA」のステージでも話したんです。「皆さんがいたから私は
歌手になれた。みんなに歌手にしてもらえた」って。
──デビューしてから時間をかけて、オーディエンスとのつながりの中で「歌手になれ
た」と実感できた?
はい。私がデビューした1990年代後半は、歌手に特化したミュージシャンは少なくて、
自分で曲も作る方が主流だったと思うんです。シンガーソングライターが次々に出てき
た時期だし、歌手が作り手として自分のメッセージを伝えながら活動する流れもあって
。私自身も「作る」ということを意識していたし、歌手という感じではなかったんです
よね。でも、やっぱり歌が大好きだし、歌うことが自分の軸になっていると少しずつわ
かってきたんです。
今、ニュージャックスウィングをやったらどうなるか?
──ここからはアルバムの楽曲について詳しく聞かせてください。まず1曲目の「アイ
ノカタチ(feat.HIDE GReeeeN)」はドラマ「義母と娘のブルース」の主題歌として注
目を集め、大きなヒットを記録している楽曲です。
ライブで歌うと歓声が沸くし、いろんな年齢層の方に聴いてもらえている実感がありま
す。私と同世代の方も知ってくれているし、友達の子供もおじいちゃん世代の方も歌っ
ていて(笑)。世代の壁を超えて口ずさんでもらえているのはうれしいですね。なかな
か出会わないミュージシャン同士で作った曲だから、楽曲の幅が広がったことも大きい
かもしれません。
──MISIAさんとGReeeeNのプロデューサーのHIDEさんの組み合わせは、確かに新鮮でし
た。
そうですよね。歌詞の世界観は自分と決して遠くないというイメージは持っていたんで
すが、音楽のジャンルやビートの刻み方はかなり違うので「歌うのは難しいだろうな」
と思っていたんです。でも、実際に制作の作業に入ったらすごく面白かったんですよ。
HIDEさんはとにかくアイデアも多いし仕事が早い方で、こちらが投げたアイデアに対し
てもすぐにレスポンスを返してくれて。メロディを決めたあとに、ドラマから受け取っ
たメッセージをもとに話し合う場を設けてもらって、その後それぞれリリックを書いた
んです。それを照らし合わせてみたら、意外と似ている箇所もあったし、とにかくHIDE
さんの歌い出しの歌詞が素晴らしかったんですよね。「愛に もし カタチがあって」と
いうフレーズが決まった時点で、「できた!」と思えたというか。アレンジには亀田誠
治さんにも参加していただいて。亀田さんとは以前「ap bank fes」でご一緒したこと
があったんですが、楽曲を一緒に制作するのは初めてでした。
──初顔合わせが多い楽曲だったと。アルバムは「アイノカタチ(feat.HIDE GReeeeN
)」「君のそばにいるよ」で始まり、そのあとの「Interlude」と「Sparks!!」で雰囲
気が大きく変わりますね。
「Sparks!!」は「今、ニュージャックスウィングをやったらどうなるか?」というテー
マで制作した楽曲なんです。サウンドメーカーのSAKOSHINさんはニュージャックスウィ
ングの時代の音楽の影響を強く受けている方だし、一緒に面白い曲ができるかもしれな
いと思って。実際、すごくいい曲になったので「THE SUPER TOUR OF MISIA」で歌おう
と思って制作を進めていたんですよ。歌詞の中にライブのサブタイトルになっている「
Girls just wanna have fun」というフレーズが入っているのもその流れです。でも、
ライブが3時間くらいになることがわかって、泣く泣くセットリストに入れなかったん
です。実はアルバムに入れるかどうかも迷っていたんですが、この曲次第で作品の濃さ
が変わってくるなと思って、やっぱり入れることにしました。ただ、アルバム全体の中
でだいぶ異色な曲だから、その前に「Interlude」を作って「Sparks!!」につなげるこ
とにしたんです。
──インパクトが強い曲ですからね、本当に。
そうなんですよ(笑)。でも、SAKOSHINサウンドも私の音楽の中にある大きな要素なん
ですよね。根底にあるのはソウルなんですけど、いろんなタイプの楽曲を歌ってきて。
そういう多種多様なミュージックスタイルも、20年間変わらないところですね。
──ニュージャックスウィングも聴いていたんですか?
私がリアルタイムで聴いていたのは、ニュージャックスウィングをR&B、ヒップホップ
のアーティストが取り入れるにようなった1990年代前半ですね。TLCとか、ジャネット
・ジャクソンとか。「Sparks!!」のサウンドはもっと前、80年代後半あたりのニュージ
ャックスウィングをイメージしていて。私のメロディは90年代っぽいけど、アレンジを
含めて結果的に2018年のニュージャックスウィングになったと思います。歌詞はちょっ
と難しかったですね。ニュージャックスウィングって、“あまり真面目にやりすぎない
”みたいなイメージもあるじゃないですか(笑)。だから歌詞にも遊びを入れたかった
んですが、私はそういうのは得意じゃないから、キヨシさんに手伝ってもらって言葉遊
びみたいな要素を入れました。
音楽は“going on and on”であるべきもの
──米倉利紀さんが作詞作曲を手がけた「恋人失格(feat.米倉利紀)」「LOVED」は
1990年代のR&Bを想起させるナンバーです。米倉さんとは以前から交流があったとか。
初めてお会いしたのは5年前、デビュー15周年のときですね。ツアー中、たまたま飛行
機が一緒になってご挨拶したんです。そのあと私のラジオにゲストとして来ていただい
て、米倉さんの曲をセッションしたんですが、そのときの感触がとてもよくて「米倉さ
んのメロディを歌いたいな」と思ったんです。ラジオ番組中に直接オファーして、すぐ
に何曲かデモを送っていただいて。どれもよかったんですけど、今回はこの2曲を選ば
せてもらいました。「恋人失格」は米倉さんと一緒に歌わせていただいて、お互いツア
ーでなかなか時間が取れなかったんですが、私の東京国際フォーラムでのライブにゲス
トで来てもらうことになったのでその前日にレコーディングしました。その場でライブ
のリハーサルもやったんですよ(笑)。
──音楽的なルーツが近いせいか、メロディと歌のなじみ具合がすごくいいですよね。
そうですね。大先輩なんですけど「きっと同じような音楽を聴いてきたんだろうな」と
思いました。
──ジャズのテイストを感じさせる「変わりゆく この街で」も印象的でした。「変わ
り続けてる この街で僕らは」「変わらない夢や愛を歌い続けてる」というサビの歌詞
は、アルバム全体のテーマにもつながるのかなと。
私は子供の頃から歌詞を書く用のノートを持っていて、この曲のサビの言葉もずいぶん
前から書いてあったものなんです。20周年の「過去を振り返り、今を見つめる」という
テーマの中でデビューの頃を思い出してみたんですけど、東京に来たばかりの頃に「す
ごく変わっていく街だな」と感じたんですよね。気に入ったお店を見つけても、半年く
らい経つとなくなっていることもあって。“歌は世につれ世は歌につれ”という言葉も
あるし、スタッフの方からは「今を見つめながらリリックを書くべきだよ」とよく言わ
れましたけど、私としては「こんなにめまぐるしく変わっていく街で、何を歌えばいい
んだろう?」という気持ちだったんです。だって、1年後にはどうなっているかわから
ないんだから。
──確かに。
しばらくどういうふうに歌詞を書けばいいかわからなかったんですが、東京で知り合っ
た友達と話していて「悩んでいること、求めていることはみんな一緒だな」と感じたこ
とがあって。いろいろなことがあるけど、結局はみんな愛とか夢の話をしていて、周り
の状況が変わり続けているからこそ、変わらないものを求めているということに気付き
ました。あと海外を旅する中で経験したことも歌詞に生かされているかもしれません。
アフリカの村で子供たちの話を聞いたとき、「まったく悩みがなくて、幸せです」と言
った子がいたんですよ。「わからないことや困ったことがあっても、大人に聞けば答え
てくれるから」って。それはずっと生活が変わらないからなんですよね、きっと。
──特に今は変化が激しい時代ですからね。その中で不安を感じる人も多いかもしれま
せん。
そういえば、この前ビックリしたことがあって。私は物持ちがよくて、デビュー1、2年
目のときに買った電化製品をいまだに使ってるんですけど(笑)、故障して修理に出そ
うとしても「もう部品を作っていないから、修理できません。新しい商品を買ったほう
が安いですよ」って言われるんです。でも、長く使ってるから愛着があるじゃないです
か。そういう話をとあるデザイナーの方としていたら、「商品のデザインでも、同じよ
うなことがある」と言っていて。昔の家電は修理して使い続けることが前提だったから
、長く使えて優れたデザインのものが多かったそうなんです。その話を聞いたときに、
音楽も一緒だなと思って。ジャンルの移り変わりはあるけど、「5年後には聴かれてな
い」という気持ちで作ってしまったら、そこで終わりだなと。音楽は歌い継がれて聴き
継がれるもの、“going on and on”であるべきだと思うので。
ジャンルは“地球”
──「AMAZING LIFE」もアルバムを象徴する楽曲の1つだと思います。NHK「ダーウィン
が来た!生きもの新伝説」のテーマ曲として制作されたそうですね。
「ダーウィンが来た!」は以前から好きな番組なので、お話をいただいたときはうれし
かったですね。私は「生物多様性条約第10回締約国会議」の名誉大使を務めたこともあ
って生き物について学び続けているんですが、知れば知るほど「よく私はここに存在で
きているな」「私が今ここにいるのは、ものすごい確率なんだな」と思うんです。それ
は「ダーウィンが来た!」を観ているときにも感じることだし、この曲でもそういうこ
とを歌えればいいなと考えていました。
──なるほど。
作曲していただいた内池秀和さんとは一度もお会いしてなくて、この作品を作られた数
週間後にお亡くなりになったんです。「シンガーはMISIA、アレンジは鷺巣詩郎さん」
と遺言のように託され、それをどう形にするか、すごく試行錯誤しながら制作しました
。鷺巣さんには「THE GLORY DAY」(1998年発表のミニアルバムの表題曲)を作曲して
いただいたことがあるんですが、内池さんの中にもこの曲のイメージがあったみたいで
す。あと鷺巣さんはフランスで作曲や編曲をして、ロンドンで録音するというスタイル
で。ダーウィンはイギリス人なので、現地のミュージシャンに「ダーウィンが来た!」
のテーマ曲だと説明すると、「私たちのチャールズ・ダーウィンね。わかった」みたい
な反応が返ってくるんです(笑)。サウンドにはアフリカン、クラシック、ソウル、ラ
テン、ゴスペルなどが混ざっていて、鷺巣さんと「ジャンルは“地球”ですね」と話し
ていました。歌詞にも書いたんですが、まさに「いくつもの 奇跡が繋がり ここにいる
」という曲になったと思います。アルバムのリリースが12月26日、店頭には25日に届く
はずなので、クリスマスから来年にかけて聴いてもらえたらうれしいですね。
──現在行われているツアー「20th Anniversary MISIA 星空のライヴ X Life is
going on and on」は3月に閉幕し、4月26日と27日には平成最後の東京・日本武道館公
演「MISIA 平成武道館 LIFE IS GOING ON AND ON」が開催されます。
「MISIA星空のライヴ」では、20周年ということも意識しつつ、新しいアルバムの曲も
届けていきたいですね。今回の武道館は4月の最終週なので、まさに“平成最後”なん
ですよ。私が初めて武道館でライブをやらせてもらったのは、デビュー年である1998年
の12月でした。20周年の締めくくりに武道館のステージに立てるのはすごくうれしいし
、楽しみですね。
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